「再発させないための」精密根管治療(せいみつこんかんちりょう)
歯の中には神経があります。神経は歯の中央から根の先まで続いています。神経の通る管を根管と呼びます。「根管治療(こんかんちりょう)」とはこの根管の中の治療のことです。根管治療は「抜髄(ばつずい)」と「感染根管治療(かんせんこんかんちりょう)」の2種類に分けられます。日本国内において、この根管治療は再発率の高い治療となっていますが、米国では再発率も低く抑えられています。
①抜髄(ばつずい)~ はじめて神経を取る
むし歯が神経まで進行すると、神経が細菌に感染します。感染した神経が元の状態まで回復不可能な場合、これを取り除く必要があります。これを「抜髄(ばつずい)」と呼びます。
抜髄では、無菌化した後に根管内を緊密に封鎖します、これを「根管充填(こんかんじゅうてん)」と呼びます。
温かいものを食べて痛みが持続する場合、神経が感染していて抜髄となる可能性が高いです。
神経が回復可能な状態の場合は「MTAセメント」を用いることで神経を温存することが可能です。
抜髄の治療例
金属のインレー(詰め物)の下に2次カリエス(2次むし歯)が進行しており、神経まで達していました。不可逆的な歯髄炎を起こしていため、MTAセメントも使用できず、歯の神経を温存できなかったケースです。
マイクロスコープを使用した精密根管治療により、神経の除去を行い、根管充填を行った後のレントゲン写真。
②感染根管治療(かんせんこんかんちりょう) ~ 再治療
根管治療後の歯の根の先に炎症が起こってしまうことがあります。噛んだ時の痛みや、何もしなくても痛いなどの症状が出ることが多いです。炎症が悪化すると、根の先に膿がたまります。症状が進行すると歯の根元の横に膿の袋ができたり、そこから膿が出てきます。
無菌化した後に根管内を緊密に封鎖し根管充填を行います。
このような治療のことを「感染根管治療(かんせんこんかんちりょう)」といいます。
根管内の感染源除去の際に「マイクロスコープ(実体顕微鏡)」を使用することで、より効率よく効果的に根管内部の無菌化を行うことが可能です。
感染根管治療の治療例
1.術前のレントゲン写真
インレーの下で神経が失活して、根尖の炎症が起こっていました。根尖に膿がたまり、大きな嚢胞を形成しています。歯には動揺が認められました。根の先に黒い丸い像があります。これが根の先に膿が溜まったレントゲン像です。膿の溜まった部位の骨が溶けて黒く写りこみます。これを透過像と呼びみます。透過像がある部分は炎症や膿があり、骨が吸収してしまっていることを示します。
2.治療経過のレントゲン写真
根尖周囲の透過像が縮小してきているのがわかります。膿も止まり、治癒に向かっています。
3.治療終了、根管充填時のレントゲン写真
根管内の洗浄、無菌化が終了し、根管充填を行いました。根尖周囲の透過像もほぼ消失し、歯の動揺も消失しました。透過像のあった部分が白くなっているのが見えます。これは膿が消失した部位に骨が再生してきていることを示します。
4.根管充填後、5年経過後のレントゲン写真
根管充填から5年経過後の写真です。根尖の透過像は消失し、骨が再生しているのが認められます。歯根膜もきれいに再生しています。歯の動揺もまったくありません。
根管治療の実際
米国では根管治療には「専門医」が存在します。ただし自費診療となるため、治療費は日本の保険治療と比べて高額です。その代わり治療レベルは非常に高い特徴があります。対して日本の保険治療では、根管治療は数百円にしかならないため「割に合わない治療」となってしまっている現状があります。保険治療では、一人の患者さんに、じっくり時間をかけて根管治療を行うことが難しいため、しっかりした根管治療をすれば助かるような歯も、すぐに抜歯をしてインプラントを勧めるといった歯科医院も少なくないようです。当院では、米国のように、根管治療は自費診療で行っており、患者さんお一人おひとりに対して、しっかりと時間をかけて、精密な根管治療、再治療のリスクを可能な限り低減させるための治療を行っています。
米国の根管治療のデータ。高い成功率です。
日本の根管治療のデータ。日本の保険治療では再発率が高いことがわかります。
当院の精密根管治療
マイクロスコープ(実体顕微鏡)を使用した「精密根管治療」
当院では、自由診療により「マイクロスコープ(実体顕微鏡)」を使用した「精密根管治療」を行っています。マイクロスコープとは、通常の20倍まで拡大できる医療用の実体顕微鏡のことです。マイクロスコープを完備していない歯科医院では、経験や勘に頼りながら、手探りで、根管内部の細菌除去を行っています。しかし、根管内部は、非常に複雑に枝分かれや湾曲した網状構造になっていたりするため、このような方法で、感染部分を完全に除去する事は、非常に難しい現状があります。
複雑な根管内部の形状。
ファイルによる感染部分の除去。
マイクロスコープを使用することで、拡大視野下で、感染部分をしっかりと目で確認しながら、見落とすこともなく治療をすすめていくことが可能となり、より正確な根管治療を行うことができるのです。
肉眼で見たところ。(イメージ)
マイクロスコープの拡大視野(20倍)。
「水酸化カルシウム」を使用した根管内の殺菌・抗菌
根管治療では、根管内に「ファイル」という細い器具を差し込んで削り拡大し、感染部分を除去していきます。そして、殺菌するための薬剤を使用して、ファイルが届かない細かい部分まで、殺菌・消毒していきます。よりしっかりと根管内の殺菌を行うために、「根管貼薬」という殺菌作用のある薬剤を根管の中に作用させます。当院では「水酸化カルシウム製剤」を用いています。水酸化カルシウム製剤は根管内に感染する細菌に対して抗菌作用を有しています。
「3Mix」を使用した根管内の殺菌・抗菌
当院では根管治療において「3Mix(すりーみっくす)」も取り入れています。「3Mix法」では、「メタロニダゾール」「ミノサイクリン」「シプロキサン」、3種の抗生物質を混ぜて使用します。 むし歯菌の殺菌に威力を発揮します。根管内部の殺菌・消毒に使用しています。特に難治性の病変がある場合には選択的に使用しています。
「MTAセメント」
「MTAセメント」を使用した「根管充填(こんかんじゅうてん)」
当院では根管充填に、症例によってMTAセメントを用いています。根管治療では根管内部の汚れを除去した後に、「根管充填(こんかんじゅうてん)」を行います。根管充填とは、根管内部に薬剤をすき間なく埋める処置を言います。この根管充填によって、根管内部がしっかり密閉できていないと、後の再発につながってしまうリスクが上がってしまいます。この根管充填は一般的に「ガッタパーチャ」と呼ばれるゴムのような材料で行いますが、根の先が拡大され開いている症例や、根の先が拡大によって壊されてしまった症例では、どうしても隙間ができやすくなります。当院ではこのような場合、根管充填には、殺菌作用や強い接着性があるだけでなく、再石灰化性があり歯と一体になりやすいことから、MTAセメントを使用することで、治療の成功率を高めています。
「MTAセメント」を使用した「根管充填(こんかんじゅうてん)」の治療例
以前に他院にて感染根管治療をした歯の炎症の再発です。根尖が大きく拡大され過ぎており、根尖が壊れていた症例です。黒っぽく透けている部分は、感染により歯を支える骨が失われている部分です。
根尖部分が壊され、広く開いていたため、MTAセメントにて根管充填を行いました。術前にあった炎症は取れ、骨が再生しているのが認められます。
MTAセメントを使用したパーフォレーション(穿孔)封鎖
「パーフォレーション」とは、「穿孔(せんこう)」といって、根管とは異なる部分に穴が開いてしまった状態のことしまったです。 原因として、根管治療中に偶発的に空いてしまった、重度のむし歯 、歯根の吸収などによって起ります。パーフォレーションがあるとそこから菌が入り込み、炎症を起こします。当院ではパーフォレーションを無菌的に封鎖(リペア)するために、MTAセメントを用いています。
MTAセメントを使用したパーフォレーション(穿孔)封鎖の治療例
他院で治療したところが、レントゲン写真のように、被せ物の土台(コア)ごと歯の根を突き破ってしまっています。このような例は少なくありません。タービンという機械で、方向を間違えて突き破ってしまうというケースが多いと感じます。
MTAセメントにより、しっかりと突き破られていた部分(パーフォレーション=穿孔)を封鎖しました。
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